どうも、ば~んです。
今回は「魔法使いの夜」の感想記事です。
プレイ時間は25時間前後。本編+サブストーリーも全て見ました。本編だけだと20時間かからないくらいかなあ。詳しくは後述しますが、基本、読むだけのゲーム性なのでボリュームは控えめなほうです。
- 2012年にPCで発売された作品の移植ゲーム
- 落ち着いた静の描写を軸とした雰囲気
- 「魅せる」ことにこだわったゲーム性と文章表現
- 盛り上がりが最高な戦闘演出
- 補完として優秀なサブストーリー
- 静と動の使い分けが完璧なサウンド
- 気になった点
- まとめ
2012年にPCで発売された作品の移植ゲーム
本作は2012年にPCで発売された「魔法使いの夜」の移植作品です。
今回の移植に当たっての追加要素は、ボイスがフルボイス対応になったことと、画質がフルHDになったことの2点のみ。
なので、追加要素的なものは特にありません。ただ、元々はボイスのない作品なので、フルボイス対応は作品としては結構大きな追加要素なのかも。
10年前の作品をそのまま移植しているということで、ちょっと古くささを感じるかな?というのは気になっていたんですが、
そもそもの時代設定的が1980年代であることや、元の作品の演出のレベルがオーパーツか?と思ってしまうくらい、現代水準で見ても異様に高いので、全く気になりませんでした。
むしろ、全然2022年の作品として通用していたのではないかと。なので、昔のゲームという感覚は考えず楽しめると思います。
ちなみに、本作の主人公の一人である「蒼崎青子」は、月姫でも登場するキャラクターなので、セットで遊ぶとより「型月」の世界観に浸れていいかなと。
落ち着いた静の描写を軸とした雰囲気
そんな本作なんですが、とにかく落ち着いていて綺麗、さながら芸術品のような、独特で趣ある雰囲気を纏った作品でした。
なぜそこまで美しく感じるのか?というと、ゲームのデザイン面の統一感が非常に高いんですよね。
・1980年代という、やや現代離れした落ち着きと郷愁のある時代設定。
・季節設定は11月から12月の終わりの冬。
・モノトーンを強調したカラーデザイン。
・写実的表現を意識したCGカット。
・クラシック曲アレンジを中心としたサウンド。
ざっとポイントを挙げてみました。とりわけ一昔前の冬、という舞台設定の影響が大きく、ノスタルジックで退廃的、だけどもどこか心落ち着くような、不思議な感覚を得られる仕上がりになっています。CGのレベルもかなり高め。
そんな作風に併せてなのか、表現の方もかなり落ち着き気味。Fateや月姫のように、タイプムーンの作品はどちらかというと伝奇、怪奇のような不気味さ、過激さを持っている作品が多いですが、本作はそこから離れて、あくまで落ち着いた日常がメイン。
メインストーリーの内容としては、魔法使い2人と同居することになった一人の青年という組み合わせで巻き起こる日常パートと、魔法使いとしての在り方を描く戦闘パートという感じ。配分は7:3くらいかな。
なので、良くも悪くも癖が弱めで幅広い層が遊びやすい内容になっているんじゃないかと感じました。(まあ、全く過激な表現がないかというとそうではないんですけどね。)
ただですね、じゃあ地味な内容なのかと言われると全然そんなことはなくて、
些細な日常の中でのキャラクター同士の細かな関係性や、価値観の違いをテーマにした深い心理描写、時代を感じさせるノスタルジックな情景表現が非常に高いレベルでまとまっていますし、
後述するように日常パートがしっかりあるからこその作風なので、しっかり芯のある落ち着きが軸になっている作りでした。
「魅せる」ことにこだわったゲーム性と文章表現
そんな本作のゲームとして最大の特徴は、ノベルゲームにも関わらず、基本的に選択肢が一切登場しないことです。
後述するように本編外のおまけ要素こそある物の、本編はノンストップで進んでいくため、ある種映画的な映像表現を見ている感覚に近いかと。
昨今はこういう作品、珍しくもなくなってきましたが、本作はアニメーションなどは特に導入していないので、立ち絵メインのフルプライスノベルゲームとしてはかなりのレアケースかと思います。
一見、これだけ聞くと手抜きのように見えるかもしれませんが、本作の場合、「アニメーションでもなく、ゲーム性でもなく、あくまで物語と表現だけで勝負したい」という強い意欲を感じられたので、ここまで突き切ればありかなーと思いましたね。
そんな「魅せる」ゲーム性のもう一つのキーポイントとなっているのが、凝って作られた文章表現です。
本作ですね、ノベルゲームにしてはかなり珍しく本編の多くのシーンが3人称視点で語られるんですよ。(※サブストーリー&番外編除く)
そのため、語り手が何を考えているのか?というのがプレイヤーには見えて来にくく、意外なところに伏線が隠されていたり、あとになって思い返して気づくような描写が多く、読みごたえがありました。
特にね、主人公の一人である静希草十郎。彼はこの文章表現の巧みさによって、最も上手く描写されたキャラクターだったと思います。
彼はですね、山から都会に出てきたという一見、純朴そうな少年のような風貌で、基本シナリオの中でも振り回される立ち位置なんですが、彼の内部心情は結構終盤まで明かされないんですよ。
彼の内面、青子への想いが何なのか、という所を敢えてプレイヤー側に隠して物語が進行するからこそ、終盤の盛り上がりに繋がっていたと思うので、見事な構造でした。
盛り上がりが最高な戦闘演出
落ち着いた演出が目立つ本作ですが、一方で戦闘シーンの盛り上がりはとにかく最高でした!
戦闘シーン自体はですね、序盤と終盤に一つずつ大きなイベントがある程度なので、作中の中だとそこまで回数は大きくないんですが、いずれも非常にレベルが高いです。
基本一枚絵の作りでここまでの迫力を出せるのか!?ってくらい激しく、そして鮮やかな表現には驚かされましたし、改めて本作がいまだに稀代のアドベンチャーゲームという評価を受けていることを実感できました。
しかもですね、この2つの戦闘シーン。いずれも作中でめちゃめちゃ効果的に演出されているんですよ。
序盤の戦闘シーンは舞台背景、音楽、雰囲気と何から何まで魔法というものを強調していて、異世界に迷い込んだような不思議な感覚と、共に魔法使いの夜という作品が何たるものなのかという強烈な印象を叩き込んできます。
一方で終盤の戦闘シーンは、それまでの日常パートで表現されてきた人物描写や背景など、それら全てがあってこそ、映える作りになっているんですよね。
基本が静で構成されているからこそ、動に振り切ったシーンは一際印象的に残る、そんなギャップを上手く利用しつつ、演出、BGM、ストーリー展開。何から何まで見事にカッチリハマったあのシーンの盛り上がりは極上でした。
補完として優秀なサブストーリー
本作、型月作品らしく、本編以外にもおまけストーリーのようなものがいくつか存在しますが、これもとても面白かったです。
方式としては、本編を進めていくと「書庫」に本が溜まっていき、本編の本に加えて、それ以外の本も定期的に出現するという感じ。
サブストーリーでは、本編の補完ストーリーに加えて、本編ではそこまで出番のない学校や街の人々を掘り下げるようなエピソードも多め。加えて、月姫の「おしえてシエル先生」のようなミニキャラでのエピソードもあるので、充実感高めでした。
おまけに、本編クリア後には「番外編」というものまで用意されています。この番外編、おふざけ的な内容ながらえらい作り込まれていて、
本編にはない選択肢があったり、選択肢次第でデットエンドが発生したりと、ある意味元来のタイプムーン作品のノリが楽しめるんですよね。ボイス聞きながら読み切ると3時間弱くらいのボリュームあります。
キャラもはっちゃけ気味だし、時系列が本編の1年後なので、本編のその後を示唆する描写もあるし、ストーリーもギャグっぽいのに、意外とちゃんとミステリーホラーしてるしと、色々盛りだくさんでかなり楽しめました!
本編とはちょっと違うノリが楽しめるのが、すごい新鮮に感じてぼくは一気に読み切ってしまいましたわ。
最後の推理パート結構難しくてワロタ
静と動の使い分けが完璧なサウンド
本作、サウンドも大変素晴らしい出来です。
前述したクラシックアレンジ以外は、ピアノとヴァイオリン中心のクラシック系の曲が大半。いずれも本作の落ち着いた雰囲気に抜群にマッチしています。
特にキャラクター系の曲の出来が素晴らしいです。キャラクター名がそのまま曲名になっている曲がいくつかあるんですが、キャラを完璧に表現しきっていて、非常にレベルが高い。「蒼崎青子」とか「久遠寺有珠」辺りの曲、ピッタリすぎます。
それでいて、本編の内容に合わせて、落ち着いた曲だけでなく戦闘シーン用に盛り上がる曲もしっかり健在。
とりわけ、終盤で流れる「FIve」という曲の最高さと来たら!あの曲、演出との相乗効果がヤバすぎて、何回かシーン見返してしまいました。
月姫の魔眼覚醒でも感じたんですが、型月作品はノベルゲームなのに所謂処刑用BGMと言われるような、イベント用BGMを採用しているのが面白いですよね。この曲はほんとの一回限りしか流れないので、余計に印象に残りました。
この曲を本編で聞くことが、魔法使いの夜を遊ぶ価値に直結するレベルだと思うので、気になった方はぜひ遊んでみてください!
気になった点
ややメリハリにかけるゲーム展開
本作、気になったのは全体的にメリハリに欠ける点です。ゲーム性として選択肢がないことに加えて、戦闘シーンがそこまで多くないんですよ。
日常描写自体が悪いわけではなく、それ自体は凄く丁寧に作られていると思いますし、選択肢がないことも含めて、それこその作品というのも凄く理解はできました。
ただ、やっぱり見ているだけの時間が長い中で、ゆったりとした展開が続くと、どうしても退屈に感じてしまうことがなくはなかったんですよね。
だから、個人的にはメリハリって意味だと月姫リメイクの方が面白く感じました。ただ、演出含めた盛り上がりはこちらの方が上だったと思うので、一長一短かなとは思うのですが。
両作品、色々対になっているなーって感じた部分が多かったので、遊び比べてみても味があるかもしれません。
あくまで序章的な内容の一作
後はですね。本作、内容的には複数作続くシリーズの序章のような感じの内容になってます。
1作としての終わり方は綺麗だと思いますし、十分まとまっているとは思いますが、一方で未回収というか触れ切られていない伏線もいくつか残っていますし、
本編の終わり方も、キャラクターの出会い編完!という感じなので、やや消化不良感は否めず。
まあ、本編自体がやや短いとはいえ、1作としてのボリュームにはそこまで不満はないので、問題は10年経ってもこの続編が展開されていないことですかね。
続編さえ展開してくれれば、本作で丁寧に描かれた描写やキャラクターたちがより魅力的に仕上がるのかなと思うので、そこは今後に期待という感じでしょうか。
タイプムーン作品は数が多すぎて、展開難しそうだなあ…
まとめ
以上、感想まとめでした。
とにかく品質のレベルが高く、その美しさは2020年代の今遊んでも全く色褪せることないレベルです。シナリオ、キャラクター、CG、音楽、全てが統一感ある作りなので、相当気を遣って作られたのが伝わってきました。
一方で、型月作品にありがちな奇をてらった表現は良くも悪くも少なめです。なので、人によってはそこらへんが物足りなく感じる可能性もあるのかも。
ただ、作品の個性として、この雰囲気はとても魅力的なものに仕上がっているので、落ち着きや情緒といったものに関心がある方はぜひ遊んでみてください!